HACCP導入の現状と課題

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令和3年6月から、食品企業はHACCPに沿った衛生管理を実施することが義務化されています。しかし一方で、厚生労働省の令和5年度の調査(令和6年3月公表)によれば、HACCPに沿った衛生管理の実施状況に関して、製造・加工業全体で見ると「実施はしていないが、これから導入する予定である」と回答した事業者が、現在もまだ22.6%を占めているという結果もあります。

認知率と導入の遅れ

義務化の認知率が80%を超えているにも関わらず対応が遅れたのは、導入にあたっての問題点として挙げられた「研修・指導を受ける機会がなかった」「時間的な余裕がなかった」「研修・指導を受ける金銭的な余裕がない」「人材がいない」「導入に手間がかかる」「運用に係る金銭的なコスト」「運用に係る金銭以外の手間」などが背景にあると考えられます。

懸念と導入に対する判断

調査結果から推定すると、「どうしたらよいのかよくわからない」ということを出発点に、「大きな手間がかかるのではないか」「多額の金銭、投資が必要になるのではないか」といった懸念が、取り組みに水を差すことに繋がっていたように思われます。

HACCP導入にかかる金銭面の実態

「HACCPの導入に当たって、金銭が必要になるのか」について、特に金額が大きくなる傾向の強いハード(施設、設備)への投資に焦点を当ててみましょう。 結論からいえば、投資はマストではありません。しかし結果として必要になるケース、必要と考えられるようになるケースが多いです。

短期的に言えば、投資をしなくとも要求事項を満たすことは可能といえます。HACCPに関連する規格認証の要求事項を読んでみても、何らかの装置が必須であると書かれたものはありません。

ソフト面での対応

要求事項が「~~しなければならない」と表現されているのは、「こういう状態になっていることが必要です」という意味です。そのため、求められている状態をどうやって実現するかは、事業者の判断に委ねられており、必ずしも投資をして何らかのハードを導入することを求めている訳ではありません。

例えば、新たに仕組みを作ったり、既存の仕組みを効率化したりするソフト面での対応も認められています。ただし、多くの場合は、増員や作業の手間が増えることに繋がるため、ヒトを投入する結果につながっています。

中長期的な視点でのハードの必要性

こうしたことを踏まえ、食品の安全性の側面から捉えれば、中長期的にはハードの充実が必須と言えます。アレルゲン管理に関連した作業動線の複雑化が、製造現場の効率を低下させる可能性があります。

アレルゲン管理の重要性

アレルゲン管理の重要性

※参照元:引用元:「食品の製造・加工業における食品アレルゲン管理ガイドブック 東京都健康安全研究センター 広域監視部」
https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/k_shokuhin/allergy/

アレルゲン管理については、コーデックス委員会が2020年11月の総会でHACCPガイドラインの改訂版を採択しました。食物アレルギーは、少量でも発症する可能性があり、HACCP認証でも高い関心をもってチェックされる項目です。

既存の製造環境とアレルゲン管理の課題

既存の製造場所は、稼働開始の歴史が古く、また増築・改築を繰り返した結果、製造時の動線が複雑化していることが多いです。適切なアレルゲン管理を実現するためには、現行保管場所に対してアレルゲン区分を設定する方策が考えられます。 例えば、下記のような方法が挙げられます。

効率的な運用に向けたルールの設定

「現有設備ありき」での管理は、弾力性が乏しいことや運用に負担をかけることが大きなネックです。製造現場においてルールが足かせとなり、効率が損なわれる原因になることもあります。

HACCP運用の真の目的

HACCPを運用する本当の目的は、日々の食品製造活動に対して、安全性の証拠を残すことにあります。取引先から調査を受けた場合、管理すべき事項が管理できていないことが明らかになると、企業にとって大きな影響を及ぼすことになります。

まとめ

HACCPの運用についてハード面での投資を検討する際は、以下の視点で考えると良いでしょう。