昨今の気候変動により、年々気温が高くなり、毎年のように異常気象が発生しています。そんな中で気になるのが熱中症。工場は構造的に暑くなりやすく、熱中症が起こりやすい環境になっています。このサイトを監修しているアカネサスさんに、食品工場における熱中症対策について聞きました。
暑さで体温が上昇し、めまいやけいれん、頭痛などが引き起こされ、最悪のケースでは死に至る熱中症。症例数も増加傾向にあるこの熱中症ですが、実はその4割以上が屋内での発症であることはご存じでしたか?
炎天下だけでなく、風通しが悪い屋内でも十分な水分・塩分補給がなされないと体温の調整が効かなくなり、発症してしまいます。
閉め切った屋内は熱中症が起こりやすい環境の一つです。熱中症のリスクは気温と湿度に大きく依存しますが、風通しのない屋内は湿度が高くなりやすくなっています。湿度が 20%上がると、体感温度は 4℃も上がると言われています。
画像引用元:ダイキン公式HP
https://www.daikin.co.jp/air/life/laboratory/heatstroke
上この表は普通の屋内での熱中症リスクを示しています。大型機械などの熱源があり、
かつ熱がこもりやすい密閉構造の工場ではリスクがより高くなることは明らかで、赤い部分に該当する温度・湿度の組み合わせになっている工場は極めて危険な状態と言えるでしょう。
さて、熱中症が屋内でも頻繁に起こり、中でも工場は危険な環境にあることを認識したうえで、次は実際の労働者の声に耳を傾けてみましょう。
ノルド社会環境研究所の調査によると、夏場は工場や倉庫労働者の実に 95%が職場を暑いと回答。また、工場・倉庫勤務者の 52%が勤務中の体調不良経験者で、さらに約 10 人に 1 人が屋内で熱中症になったことがあるという調査結果も出ています。一般的に人は暑さを不快に感じていると、3~4割程度作業能率が低下するというデータがあり、肉体労働が多く、会社オフィスより気温が高い工場ではその能率ダウンもより顕著になると考えられます。
また、暑さによる集中力の減少は、作業効率の低下だけでなく、事故やトラブルの原因となる可能性もあります。大型の機械を稼働させている工場では、意識が朦朧とし たまま作業にあたると命に係わる事故や、異物混入など生産ライン全体に影響を与えるトラブルが起こる可能性があります。
ここまでは一般的な工場について話してきましたが、ここからは暑さ対策に関して食 品工場特有の悩みについて触れていきます。
徹底した衛生管理が求められる食品工場では、作業着も密閉率が極めて高くなることでしょう。風通しが悪く、熱もこもりやすいため、工場内で空調が効いていても、従業員がそれを感じられないということもしばしばあります。
また、従業員に快適な環境で作業をしてほしくても、商品を冷風にさらしたくない場 合など、エアコンを使うことが憚られる場合もあります。
また、コストが低い送風機は、粉体を扱う工程に限らず、埃が舞うことへの懸念から利用できる状況が限られています。
エアコンを使用する場合も、その風が包装前の製品にあたるとカビの原因となるため細心の注意が必要です。
さて、ここからは改善策をご紹介していきたいと思います。
そもそも工場が暑くなる主な原因の一つに、屋根からの輻射熱(放射熱)があります。太陽に熱せられた屋根が室内へ輻射熱を出し、室内の人、モノ、空気を温めます。また、これら温められた人やモノからも輻射熱が再生産されることで工場内の室温が上 昇しているのです。
遮熱塗装はその大元の原因となる太陽光を 90%以上反射させることができます。適切 な遮熱塗装の平均的効果としては、屋根の表面温度を 20℃程度、工場室内の温度を 10℃程度下げることができると認められています。また、室温が大きく下がることに より、エアコンの設定温度を過度に低くする必要がなくなり、空調機器の消費電力を 40%程度減少させることができるという調査もあります。
また、機械から発せられる熱も工場の気温を上昇させる要因の一つです。こちらは遮 熱塗装ではなく、断熱フィルムを利用することで対策が可能です。熱源となる機械に 直接すっぽりと被せる方法と、大型の機械が設置されている部屋をカーテンで覆うよ うに断熱フィルムで仕切る方法の 2 つがあります。
これらの方法は電力を使用することなく、効果的に暑さ対策を行うことができ、同時 にエアコンの使用量も減らすことができる、スマートで環境にやさしい改善策となっ ています。長期的な利益を最大化させ、持続可能な工場稼働が実現できます。
2 つ目の熱中症対策として、スポットクーラーと局所的な吸排気フードの導入が挙げられます。
スポットクーラーは移動が容易で、従業員だけに直接冷風をあてることが可能です。先ほど商品を冷風にさらしたくない場合などエアコンの使用が好ましくない状況をご紹介しましたが、こちらのスポットクーラーはうまく使えば人だけを冷やすことが可能です。また、ランニングコストが通常のエアコンに比べて安く、持ち運びも可能 で、かつ導入も容易です。
スポットエアコンのデメリットとしてしばしば部屋全体の温度を上げてしまうことが指摘されていますが、商品のために部屋の温度を下げたくない場合などはむしろ好都合と言えるでしょう。
吸排気フードは熱された空気を外に逃がす役割を果たします。これを熱源となりやすい大型の機械の近くの天井や床などに局所的に設置し、熱せられた空気が工場内に循環するのを防ぎます。こちらもスポットクーラーと同じ考え方で、部屋全体の気温へ の影響は比較的少なく、省エネルギーでピンポイントに効果を発揮します。
これまで見てきた課題以外にも、熱中症予防のためには考慮すべき点がたくさんあります。同様にここでご紹介した以外にも、暑さ対策の方法はたくさんあります。
食品工場と一口に言っても、商品によってその機械や工場設計は千差万別で、一概に言うことはできません。それぞれの商品や製造ライン、工場の規模にあった課題や対策があります。ぜひ一度ご相談くださいませ。