食品を製造する工程で異物が混入し、そのまま製品として出荷されてしまった場合、単純に製品の回収による損失だけでなく食品製造会社や食品工場としての社会的信用まで失いかねません。また信頼回復には時間とコストがかかり、場合によっては一度失われたブランドイメージや企業イメージは二度と問題発覚前の状態に戻らないというケースもあるでしょう。
食品工場や食品製造ラインにおける異物混入は様々な原因がありますが、適切な工程管理や製造工場のマネジメントを実施することで、異物混入リスクを軽減することは可能です。
人の口に入る食品を製造しているという社会的責任と企業への信頼を維持するために、異物混入対策へ取り組むことは企業の責務といえるでしょう。
異物混入とは、文字通り本来であれば想定されていない物質や混在すべきでない物質などが製品の製造工程や加工工程で混入してしまい、品質的に望ましくない状態になってしまっている現象を指します。異物混入として考えられるケースとしてはゴミや金属片、無関係な原料や虫など様々な物質が混ざって入り込んでしまっている状態だけでなく、広い意味では細菌やウイルスなど目に見えないもので汚染されたり、水や汗といった液体が混入したりと様々なパターンが想定されます。
市販の食品に虫の一部が混入していたり、金属やプラスチックの破片が混入していたりといったトラブルは日本全国で不定期に発生しており、社会的な食品の安全性や製造現場の衛生環境について考えるきっかけになっています。
実際、独立行政法人国民生活センターに消費者から寄せられた「食品の異物混入」に関する相談件数は、2009年度から2015年10月1日までの登録分で16,094件にも及んでおり、さらに混入していた異物のせいで歯が欠けたり口内を切ったりといった被害件数も3,191件に達している事実は無視できません。
またSNSが普及している現代では、ユーザーが異物の混入している製品の写真をインターネット上に公開して大規模な社会問題に発展するといった炎上騒動も発生しています。
※参考元:独立行政法人国民生活センター|食品の異物混入に関する相談の概要(2015年1月26日:公表)(https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20150126_1.html)
食品工場で起こりやすい異物混入パターンの1つとして、まずは製造工程における異物の混入があります。
製造工程で発生する異物混入リスクには、そもそも原材料に異物が混入している場合や、製造途中に虫やゴミなどの異物が混入してしまう場合、製造作業に従事している作業員の髪や服の一部が混入してしまう場合、さらに製造機械の一部が剥離したり破損したりして混入してしまう場合など、様々なケースが想定されます。
そのため、製造工程における異物混入を防ぐ場合は、それぞれのリスクや原因について検討しなければなりません。
食品工場における異物混入パターンとしては、製造された製品を運搬したり梱包したりする際に異物が混入してしまうケースも考えられるでしょう。
特に製造ラインでは食品の中身だけを製造し、改めて包装作業や梱包作業を別のラインへ手運びして移し替えるような場合、適切な対策を施しておかなければゴミやホコリ、虫など様々な異物が混入してしまうリスクも高まります。
また屋内から屋外へ製品を持ち出したり、運搬してきた製品を搬入したりする際にも異物混入のリスクがあります。
現代では、食品工場など食品製造に関与する施設・設備について衛生管理などの基準が法的に定められており、そもそも明らかに異物混入リスクがあるような工場や製造所は営業許可を認められない可能性が高いでしょう。そのためそれぞれの企業や食品工場では異物混入対策としてマニュアルや製造に関するルールを定めています。
しかし、従業員の衛生意識が低かったり、繁忙期などで適切な業務オペレーションが実施されていなかったりすると、マニュアルやルールによって防がれていた異物混入についてもリスクが増大してしまいます。
工場や作業場へ入る前に、あらかじめ決められた服装へ着替えなかったり、体に付着しているゴミやホコリを除去しなかったりすると、そのまま場内へ異物を持ち込んでしまうことになるでしょう。また業務に関係のないものを場内へ持ち込んだり、持ち出してはいけないものを場外で使用したりした場合も、異物混入や汚染のリスクを下げることはできません。
定められた製造手順に従って作業しなかったり、原材料や製品について適切な品質チェックや衛生管理を行わなかったりした場合、当然ながら異物混入を防ぐことは困難です。
食品を扱う工場や原材料を保管する倉庫では、常に害虫や害獣による影響を考えなければなりません。また、工場として密閉度の高い設計を行って建築していたとしても、従業員が出入口をきちんと閉めていなかったり、窓や排気口、排水孔などに隙間が存在していたりすれば、そこからゴキブリやクモといった虫が侵入することもあります。
その他、従業員の衣服や靴、原料の入っていた袋に害虫の卵が付着していた場合、将来的に工場内や倉庫内で害虫が発生してしまうことも考えられるでしょう。
なお、一度でもゴキブリのような害虫が発生した場合、目に見える範囲で殺虫・除虫作業を行っても、配管や機械の内部などで虫が生存しているリスクは解消できません。
施設や設備が老朽化していると、壁や天井の塗装が剥がれて製品に混入したり、窓や壁に生じた亀裂が害虫・害獣の侵入経路になったりします。また設備や機械が経年劣化によって損耗すると、その一部が製品に混入してしまうおそれもあります。
加えて、品質チェックや外観検査、異物検知などを行うためのシステムを導入している場合、そのシステムのメンテナンスを適切に実施して機能を維持しておかなければ、発見されるべきエラーが見逃されて不良品や異物混入品を量産してしまうかも知れません。
食品工場において施設や設備を健全に維持することは、製造する食品の品質を保つだけでなく、異物混入をはじめとする様々なリスクを予防するためにも重要です。
食品工場で異物混入が起こるのは、過失によるものだけではありません。第三者によって意図的に異物が混入されるケースもあります。悪意のある人が意図的に異物や有害物質を食品に混入し、消費者がそれを知らずに口に入れてしまうと、重大な食品事故に発展してしまうのは想像に難くないでしょう。
これら異物混入は、主に生産に携わる従業員による内部犯行のケースと、部外者による犯行の2パターンがあります。このような食品テロのリスクを防ぐためには、従業員の業務環境の改善や監視カメラの設置などの施設管理、エリアごとの入出制限や訪問者の身元確認といった異物混入防止への取り組みが重要です。
食品製造工場や食品加工現場などにおいて混入しやすい異物としては様々なものが考えられます。
ここでは大きく異物の種類を動物性異物、植物性異物、鉱物性異物、そして菌・ウイルスといった微少異物に分類した上で、それぞれの異物の内容や種類、特徴を解説していきますので参考にしてください。
動物性異物は、例えば食品の調理作業や梱包作業を行っている作業員の髪の毛や汗、爪といった人由来の異物であったり、製造工場内に侵入した虫の死骸や動物の糞といった害虫・害獣由来の異物であったりと、人を含めた何かしらの動物に起因する異物です。
現実問題として、特に作業員の毛は動物性異物の原因として多いものであり、虫の混入よりも日常的に発生するリスクの大きなものになっています。
動物性異物は細菌汚染や病原体の混入といった危険性を招くだけでなく、消費者にとって生理的な嫌悪感を強烈に呼び覚ます恐れのあるものであり、特に食品や飲料などに動物性異物が混入していた場合にはトラブルとして非常に深刻な事例になってしまうケースも少なくありません。
植物性異物とは、例えば本来は取り除かれるはずであった果物の皮の一部が混入していたり、原材料に混ざっていた木箱の一部などが製造ラインへ一緒に投入されて食品に混在してしまったりといった、植物由来の異物の総称です。
植物性の原料や素材を日常的に使用している食品製造工場において、植物性異物は発生する可能性も高くなりやすく、そのまま植物性異物の混入した食品などが出荷されると消費者からのクレームや回収騒動へ発展することもあるでしょう。
なお、原料の一部として破片やクズなどが混入している場合、直ちに人体へ有害な事象を発生させるとは限りませんが、それでも本来であれば存在すべきでない物質が混入している時点で製造工程の衛生管理に問題や不足がある証明になります。
鉱物性異物とは、動物性異物や植物性異物と異なり、無機物・無生物などに起因する異物です。例えば金属の欠片やガラス片、小石といったものは鉱物性異物として考えられ、食品に混在していた場合は喫食時に歯を欠けさせたり口内を切ったりといったケガの要因になり得ます。
また、製造機械の経年劣化やトラブルによって加工機械の塗装の一部が剥がれて混入したり、破損した部品の欠片が混入したりといったケースも少なくありません。
実際、コロナウイルスの感染拡大が発生した際、新型コロナワクチンの一部に製造工程において混入したと思われる鉱物性異物(ステンレス)が発見された結果、対象ロットのワクチンが使用不可・回収になり社会的にも大きな影響を与えるといった事例が発生しました。
※参考元:厚生労働省|新型コロナワクチンの異物混入への対応(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_tmmiawase.html)
細菌やウイルスといった微生物や微少物質は植物性異物や動物性異物として分類されることもありますが、目に見えないサイズの異物でありながら食中毒など深刻な被害を発生させる原因にもなるため、特段の注意と警戒が必要です。
菌やウイルスはそもそも大気中に常時存在しており、クリーンルームなど特別に清浄な環境が整えられているような状況を除けば、常にあらゆる場所に存在していると考えるべきでしょう。また人の手や衣服にも付着しており、外気に触れたり素手で触ったりした際には当然に菌やウイルスによる異物混入・汚染が生じていると考えて然るべきであり、消毒や殺菌といった処理が必要です。
異物混入対策としての大前提は、それぞれの食品工場の状況や製造工程などに合わせて、適切な衛生管理の方法を検討して品質管理マニュアルや衛生管理ルールなどをあらかじめ用意しておくことです。また、当然ながらそれらのマニュアルやルールにもとづいて社員教育などを実施し、各従業員へ食品製造に携わる意義や責任をしっかりと共有しておかなければなりません。
特に作業場へ入る際には決められた制服や帽子、マスクなどを着用することはもちろん、その着方についてもルールを徹底することが必要です。加えて、作業しにくい環境で疲労や不快感が増大し、従業員がだらしない服装をしないように場内環境を改善させることも大切です。
作業マニュアルと工場の実態にもとづいて人の出入りや動線を最適化し、また食品の原材料の保管庫や調理作業などを行う空間、さらに製品の梱包スペースなどそれぞれの作業目的やリスクに合わせてゾーニングを考えることも欠かせません。
さらに目的と作業場をきちんと区別した上で、各ポイントにおける異物混入リスクの大小や対策の重要性に優先順位を定める、リスクアセスメントを実施していくことも肝要です。
なお、ゾーニングした場所には出入口にゲートやエアカーテンを設置するなど、空間を物理的に遮断できる対策を考えることも必要です。
食品製造工場を新築する場合、最初から虫害や獣害などのリスクが生じにくいよう入口や間取り、機械の配置などをデザインすることも異物混入対策として無視できません。
例えば水を使う場所では排水設備や排水孔が必要になりますが、排水孔は虫害リスクを高めるため、相応の対策を行えるよう設計することがポイントです。また二重扉の設置や空調設備のプランニングなど、外部からの虫の侵入を防ぐ試みも有効です。
どれだけ真面目に品質管理へ取り組んでも、やはり人の力や作業だけでは万全の管理体制を叶えることが難しいこともあります。特に機械設備を使用していたり複数の工程をまとめた製造ラインを有していたりする場合、全てを人の目や手でチェックすることは困難です。
そのため製造ラインへ品質管理や異物混入検知を目的とした機器やセンサーを導入し、人の手とシステムの両方からリスク軽減へ取り組むことが必要となります。
施設の床にたまったゴミやホコリ、設備に付着した汚れなどは全てそれ自体が異物混入リスクにつながる異物の元です。そのため、工場内や作業スペースを定期的に清掃して、常に清潔な衛生環境を保つことは異物混入対策の基本中の基本です。また清掃の仕方も異物が周囲へ散らないよう配慮した方法を考えなければなりません。
加えて製造設備や加工機の経年劣化や破損などは鉱物性異物の発生につながるため、日常的なメンテナンスや保守管理によって日頃から状態をチェックしておき、耐用年数の限界が近づけば新しいものへ交換するといった対策も大切です。
食品工場の設備を交換する場合や新設する場合にも注意が必要です。
下記ページでは食品工場建設・新設における間違いについて紹介していますので併せてご参考ください。
目に見える異物であれば物理的に除去することも可能ですが、細菌やウイルスといった目に見えない物質や、液体として混入したり製品中に溶けてしまったりした異物に関してはそもそも視覚的に発見・除去することが困難です。そのため適切な加熱処理や冷凍処理によって目に見えない細菌やウイルスを死滅させ、食品や飲料品として安全な状態を保たなければなりません。
ただし加熱処理や冷凍処理は食品の品質にも影響するため、合理的な加工法を検討する必要があります。
日常的な異物混入対策の落とし穴として考えるべきポイントが、例えば清掃に使うクロスや器具などがそもそも異物に汚染されており、清潔に保とうと掃除するたびに雑菌や汚れが拡散されて異物混入リスクが増大していくという状態です。
環境負荷の軽減やサスティナブルな社会の実現に向けて道具の使い捨てが敬遠されることもありますが、あくまでも衛生管理の適正化を考えて、使い捨て可能なクロスなども使い分けていくことが重要です。
なお、容器や器具といった備品を再利用する前に、オートクレーブなどの加圧滅菌装置で処理するといった工程も役立ちます。
動物性異物のリスクは害虫や害獣の侵入しやすさと比例関係にあり、製造工場や作業場の内部へ虫や動物が張り込みやすい環境であるほど異物混入の危険性も増大します。そのため出入口にある扉の開放の厳禁や窓の隙間のチェック、排気口や通気口、排水孔の周辺のケアなどを行い、そもそも害虫や害獣が侵入しにくい環境づくりを行うことが欠かせません。
特に食品工場などは動物や虫の餌となる原料や素材を取り扱っており、害虫・害獣を誘引しやすい環境だと理解しておきましょう。
異物混入リスクはあらゆる食品メーカーや食品製造工場において無視できない問題であり、異物混入対策へ取り組むことは食品製造に携わる者としての社会的責任であり法的義務でもあります。
異物混入対策の実施には費用や手間がかかることもありますが、異物が混入した製品を出荷・販売してしまった際の損失は対策コストを上回ることを理解しておきましょう。