食品は人が口にするもので、何かトラブルがあると健康被害に直結する非常にデリケートな商材です。そのため我が国における食品工場では厳格な衛生基準の遵守が求められることが多く、HACCPをはじめとした国際的な衛生管理手法を取り入れる企業も増加しています。
ここではそんな食品工場の建設において、注意すべき点や導入すべき設備などを紹介・解説していきます。工場建設後に軌道修正をすることは時間的にもコスト的にも厳しくなりますので、ぜひ建設前にしっかりと知識を身に着けておいて下さい。
食品工場の建設において、安全性と衛生面の配慮が非常に重要です。外部から害虫や害獣が侵入しないようにし、内部で発生しないような環境を整える必要があります。
また、ホコリの持ち込みを防ぐために構造や素材の選定を行い、雑菌の持ち込みを防ぐ対策も必要です。
異物混入を防ぐために衣服などに付着した異物の持ち込みを防ぎ、製品の安全性と作業の安全性を確保することが求められます。
作業の過程で行う切断や加熱なども安全に行う必要があります。これらの対策は食品工場で品質と衛生を確保するために欠かせない要素です。
食品製造業では高い生産性が求められますが、一部の製品は季節による変動が激しく、生産性の向上が難しいこともあります。例えば、インスタントラーメンやアイスクリームのような製品は季節による需要の増減があり、通年で安定した生産が難しいため、労働生産性が低くなることがあります。
しかし、これらの製品の場合でも、工場は高い生産性が得られるように設計される必要があります。生産が集中する時期に効率的に生産するために、作業手順や動線に合わせたレイアウトが重要です。食品工場の建設においては、製品の特性や需要の変動を考慮し、高い生産性を実現する工夫が必要です。
製品の品質に影響を与える重要な要素として、メンテナンス性があります。メンテナンス性が低いと安全性にも影響を及ぼし、製品の品質に問題が生じる可能性があります。さらに、メンテナンスに時間や手間がかかる場合は生産性にも悪影響を及ぼすことがあります。
メンテナンス性を高めるために、壁や天井は耐水性を持たせ、床のひび割れを防止することが重要です。また、金属部分には錆びにくいステンレスを使用すると効果的です。
近年では、清掃しやすくホコリが溜まりにくい設計が求められており、壁と床の接点にアールを付けるなどの工夫が行われています。また、排水溝や排気口もクリーニングが容易な構造にすることで、衛生面の管理とメンテナンスを容易にします。排水桝の使用も衛生上の管理をより容易にする方法の一つです。
食品工場が取り扱う主な商材ごとの、工場建設計画から建設までの注意点をまとめました。
飲料工場の主な業務は殺菌と充填、出荷ですが、商品が外気に暴露されることが少ないため、充填エリア以外はインライン生産を行うケースが一般的です。自動化・機械化が図りやすいため、機械の操作や品質検査がメイン業務となります。そのため、人員を少なく配置する工夫も合わせて計画を立案していきます。
原料に粉体を取り扱う製パン工場では、工場の湿度や空調管理が重要です。空調機や空間の粉塵対策、メンテナンスがしやすい機器の選定などが求められます。
コンビニやスーパーに製品を供給している大手工場の場合、パン以外にもケーキやお菓子の製造を行っていることがあります。限定商品など、季節の変わり目やイベント時期に生産を担う場合はスタッフを増員するケースもあるため、人員の増減を見据えた計画が必要です。
食肉加工工場は、取り扱う肉の部位や種類によって、工場内の対策が変わります。牛や豚の解体など専門的なスキルが必要なほか、食肉の洗浄や下処理、切り分け、パッキングといった一連の工程を行うためのスペースが必要です。
作業全体としてウェットな環境になりやすいため、空調設備や冷蔵庫・冷凍庫の設置、冷蔵倉庫内で作業が必要な場合もあります。さらに、菌が発生しにくい、汚れを落としやすいなど、機能面も求められます。
食肉加工工場と同じように、解体や洗浄、下処理、切り分け、パッキングといった一連の作業場や空調設備、冷蔵・冷凍倉庫、菌や汚れを落としやすい機能が必要です。
さらに、海水による塩害対策など水産加工品特有の環境づくりが求められます。塩害の影響を受けにくい仕様の選定や計画が必要です。
総菜は加工や調理など商品をつくるまでの工程が多いため、それに比例して作業する従業員も多くなります。加工室の面積も広くなりやすいため、スペースを無駄にしない設備の配置、適切な動線設計といった計画性が大切です。
また、惣菜製造工場は、食材の煮炊きによる蒸気の影響から結露が発生しやすくなりますので、空調計画や機器選定も重要です。
取り扱う商品や工程によって対策に違いがあるため、原料の入荷から製品の出荷に至るまでの流れを製造工程で可視化(フローダイアグラム)し、環境に応じた計画や機器の選定を行います。また、加工や調理工程が多いセントラルキッチンでは従業員も多くなるため、加工室のスペース確保や動線計画も大切です。
カット野菜工場を建設する際には、全体的にウェットな環境でありながら、菌が発生しにくい・汚れを落としやすい工場にすることが大切です。
また、加工後の野菜の鮮度が失われないよう、低い温度を維持するための空調機や洗浄に伴う給排水設備も必要です。給排水設備はコストが高い傾向にあるため、適切な仕様選定を行いましょう。
冷凍食品は、製造から販売までのすべての工程で、常にマイナス18度以下の温度で保管しなくてはなりません。
冷凍食品の場合、冷凍温度を維持するためのコストが高くなりますが、保管形態や保管量、入出庫の方法を最適化すればコストの抑制が可能です。空調設定や冷却器の仕様選定もコスト削減に影響を与えます。
取り扱う調味料や香料によって工場建設に必要な対策は異なります。匂いのない調味料・香料であれば一般的な設備で対応できますが、香りの強い調味料・香料の場合、臭気対策が必要な場合もあります。脱臭対策は臭気の質によっても異なるため、匂いに関する調査を行った上で建設計画に反映させましょう。
取り扱う菓子(商品)の形態によって取るべき対策は異なりますが、一般的に温度・湿度の管理やコントロールが必要です。湿度・温度管理ができさえすれば良いわけではありません。商品の性質によっては粉対策が必要な場合もあります。商品に適した設備を整えられるよう、設定条件や許容値を事前に確認してから機器選定を行いましょう。
食品管理におけるいろはの「い」として、温度管理があります。食材にはそれぞれ保存に適した温度があり、保管場所や調理環境がそれらの基準を満たす温度であるかどうかをチェックするための温度管理システムを導入することは必須です。ここをおろそかにしてしまうと食材を腐敗させてしまったり品質が大きく落ちるなどさまざまなトラブルに発展する可能性が高くなってしまいます。日本の四季は寒暖差も大きいですが、年間を通して必要な環境を維持できる設備を整えましょう。
食品工場ででるゴミは乾燥物だけでなく、生ゴミも多く発生します。生ゴミはそのまま放置すると虫やネズミが湧いてしまうため、衛生的な環境を維持できなくなってしまいます。また、食品を仕入れた際などに段ボールも多く搬入されることとなりますが、この段ボールにも虫の卵がついていたりネズミの住処になってしまうなどのリスクがあります。これらのゴミからできるだけ虫やネズミが繁殖してしまわないよう、回収されるまでの間にゴミを保管するゴミ捨て場も整備しておきましょう。
一般家庭にもあるような換気扇は、虫が侵入しやすい経路の一つです。外気と内気を循環させるために設置するものではありますが、外に繋がっているがゆえに侵入されやすい経路となってしまいます。そのためゴミ捨て場などのように虫が湧きやすい場所の近くには設置しない、フィルターやネットを付けることで物理的に侵入しづらいようにするなどの対策を講じておくことが必要です。
食品を取り扱う温度環境の維持はもちろん、働くスタッフの就業環境維持も目的としてエアコンを設置しますが、このエアコンの衛生状況もしっかりと管理する必要があります。エアコンの空気は室内を大きく循環しますから、庫内が埃まみれの状態ではそのほこりを循環させてしまうことになります。そのため埃が舞いにくいエアコンを導入したり、自動で庫内を清掃してくれる機種にするなどハード面での工夫をするとともに、定期的なエアコン清掃も忘れずに行いましょう。
新築工場であっても耐用年数がありますから、経年劣化から逃れることはできません。特に壁に使われている部材は種類によってはがれやすく、何らかのタイミングで生産物に混入してしまうと大きなクレームにもなりかねません。異物混入によるクレームは非常に大きな風評となり損害が生じてしまいますから、細心の注意を払わなくてはいけません。これから工場建設を行う場合には、壁の素材は剥がれにくいものを使うなど工夫するようにしましょう。
最近では厨房設備もどんどん最新機器が登場しており、機能的にも衛生的にも優れているものが増えています。衛生的に優れているものを挙げると自動扉や自動水洗設備があり、普通であれば多くの人の手が触れて不衛生な箇所になってしまう取っ手などに手を触れる必要がなくなっています。多くの人が触れるということはそれだけ菌が移動・繁殖するリスクがあるということですから、非接触設備が導入できるのであれば積極的に取り入れるほうがよいでしょう。
食品工場では、多様な機器が使用されており、その用途に応じて効率的かつ安全に食品を製造するために重要な役割を果たします。以下に、代表的な機器を用途ごとに分けて紹介します。
野菜や肉類を一定の大きさにカットするための機器です。均一なカットが品質の一貫性を保ちます。
原料を均一に混ぜ合わせるために使用されます。パン生地やソースなどの製造に不可欠です。
これらの機器は、食品工場の効率と衛生を保つために欠かせないものであり、適切な管理とメンテナンスが必要です。
HACCP制度では食品工場の衛生管理について厳格な規定や管理手順などがまとめられていますが、そもそも食品工場の衛生環境を日常的に健全な状態へ保とうとすれば、清掃や保守管理を行いやすい施設構造や設備配置を設計していなければなりません。
どれだけ衛生管理を徹底しようとしても、建物として根本的に掃除しにくい間取りだったり、清掃用具の保管スペースと各室の動線が断絶されていたりすれば、物理的に衛生管理を行いにくい状況が発生します。
食品工場では業種としての性質上、様々な作業において大量の水を使用することが想定されますが、例えば井戸水のように地下から水をくみ上げている場合、自治体によっては地盤沈下のリスクを回避するため利用可能な水量が規制されていることもあります。また常に水道水を使用するとコストが増大する上、企業として環境に配慮すべき責務に反してしまうでしょう。
そのため事業者が供給する工業用水を専用設備で使用可能な状態に処理して、限られた水資源を適正に活用していく取り組みも大切です。