HACCP導入の歴史

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HACCPとは、Hazard(危害)・Analysis(分析)・Critical(重要)・Control(管理)・Point(場所)の頭文字を取ったもので、ハサップと呼ばれます。

これは、原料の受け入れから最終製品までのプロセスごとに、微生物・金属・化学物質の混入といった危害要因を分析・予測。そのうえで重要となる管理点を明確にし、継続的に監視・記録するためのシステムです。

日本では、2021年6月1日からすべての食品等事業者にHACCPの導入が義務付けられました。ここでは、そんなHACCP導入の歴史を紐解いていきます。

宇宙開発を機に提案されたHACCAP

HACCPの始まりは、1960年代にアメリカで行われた宇宙開発がキッカケ。NASAでは宇宙飛行士の安全を確保するために、宇宙食の高度な衛生管理法を模索してきました。その過程で、米軍と大手製造会社によって共同開発された方法がHACCAPのベースとなっており、のちのCodex委員会(国際食品規格委員会)によるHACCAPガイドラインの基礎となっています。

宇宙には医療施設がないため、万が一宇宙食が原因で食中毒になった場合、満足に治療を行う術がありません。体調不良を理由に地球へ帰るというワケにもいかないため、宇宙食には徹底的な衛生管理が求められたのです。

当初はできあがった加工食品からいくつかを抜き取って、安全が確認されたものだけを残す「抜取検査方式」が採用されていました。しかし、検査にクリアして最終的に残せる食品はごく少数であり、安全性の確保という面でも不十分であったため、より効率よく衛生的な宇宙食を加工するためにHACCPが開発されたのです。

HACCPは完成した食品の衛生面をチェックするのではなく、原料から製造過程、保管、流通といったすべての工程で危害を排除するシステム。リスクとなる要素を事前に抽出し、細かく記録をつけてコントロールすることにより、すべての食品の安全性を確保します。

アメリカでHACCPが義務化されたのは1997年で、2011年に食品安全強化法が成立。水産食品、食肉および加工品、果実や野菜、飲料など、州をまたいで取引される食品は、HACCPによる衛生管理に基づいて製造・管理されるようになりました。

ちなみに隣国である韓国でHACCPが導入されたのは2012年、台湾では2003年からHACCPの義務化を行っています。

日本におけるHACCP導入

日本でHACCP導入のキッカケとなったのは、過去に発生した大規模な食中毒事件です。その事件とは、2000年6月に総合衛生管理製造過程の承認施設で起こった食中毒事件で、患者数は13,420人。この食中毒事件の原因は、黄色ブドウ球菌が産生する毒素「エンテロトキシンA型」と判明しています。

※参照元:厚生労働省「HACCP導入普及推進の取組」(pdf)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000076152.pdf

この事件を機に、2003年に総合衛生管理製造過程承認制度が改正されることになりました。これは、HACCAPの考え方に基づいて作られた食品衛生管理の承認制度。改正では、総合衛生管理製造過程承認制度の更新制の導入(有効期間3年)、食品衛生管理者の設置免除規定の削除などが盛り込まれ、食品の衛生管理が厳格化しています。

※参照元:厚生労働省「総合衛生管理製造過程による食品の製造又は加工の承認状況」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/jigyousya/sougoueisei/index.html

さらに2018年6月には、改正食品衛生法が可決。2020年6月1日から、HACCAP導入の義務化がスタートしました。この義務化には1年の猶予期間が設けられており、2021年6月からはHACCP導入・運用が完全義務化となっています。

HACCAP完全義務化の対象となるのは、「食品の製造・加工、調理、販売、飲食店といった食品を扱うすべての事業者」。食品工場はもちろん、施設内で加工などを行わない販売のみを手がけるスーパーマーケットや商店、学校・保育園・病院・介護施設といった集団給食施設、個人経営のレストランやカフェなども導入の対象となります。ただし、1回の提供食数が20食程度未満の施設は対応不要となります。

※参照元:厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html

HACCPの導入状況は?

2021年6月より、食品を扱うすべての業者にHACCAPの導入が義務付けられていますが、導入状況はどうなっているのでしょうか。

厚生労働省食品安全部が2015年に発表した「HACCAP導入普及推進の取組」によると、2012年の時点で販売金額50~100億円の企業で80%、100億円以上の企業では84%がHACCAPを導入しています。一方、販売金額1~50億円の中小企業層では、27%の導入率という結果となりました。

2020年の法改正時に設定された目標値は「中小規模装の導入50%」となっていましたが、目標値には届いていないのが現状。その理由としては、「世界的な景気低迷により、事業者の設備投資が抑制されている」「HACCAPを導入・維持・管理する人材の不足」が考えられます。

※参照元:厚生労働省食品安全部「HACCAP導入普及推進の取組」(pdf)
 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000076152.pdf

HACCPを導入しないリスクとは

HACCAPの導入は義務化されてはいるものの、改正食品衛生法に明確な罰則は明記されていません。ただし、食品衛生法の第十一章には「3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金」が設けられているため、ずさんな衛生管理を行っていると罰金を課される恐れがあります。

※参照元:e-GOV https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233

HACCAPが義務化され一般的にもHACCAPの概念が広まってきている今、導入しないリスクのほうが高め。企業イメージや、取引先・消費者からの信頼を高めるためにも、HACCP導入を積極的に進めていくことが大切です。